和歌山地方裁判所 昭和57年(ワ)496号 判決 1983年3月29日
原告
橋詰真澄
被告
小阪拓司
ほか二名
主文
一 被告らは原告に対し、各自、金一〇八九万一五七九円、及び内金九九九万一五七九円に対する昭和五六年六月二九日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは原告に対し、各自、金一二六一万二〇四七円、及び内金一一六一万二〇四七円に対する昭和五六年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は次の交通事故により傷害を蒙つた。
(一) 発生日時 昭和五六年六月二八日午後六時一〇分頃
(二) 発生地 和歌山県那賀郡岩出町大字中黒一一四番地先路上
(三) 被害車両 原付自転車(登録番号和歌山市も四三〇一)運転者は原告
(四) 加害車両 普通貨物自動車(登録番号六六和う五三九三)運転者は被告小阪拓司
(五) 事故の状況 原告が被害車両を運転して前記道路を進行中、同一道路を後方より進んできた被告小阪拓司運転車両に接触され、転倒した。
2 原告の蒙つた傷害の部位・内容………右鎖骨々折等
右傷害により、原告は事故当日より昭和五六年一二月二〇日までの一七六日間の入院治療、同月二一日から昭和五七年五月二四日まで一五五日間(うち実治療日数は四七日間)の通院治療を余儀なくされた。右傷害は同月二四日をもつて症状固定となつたが、原告は現在も肩関節の運動障害等に苦しんでいる。
3 被告らの責任
被告田上芳一は加害車両を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、本件事故による原告の損害につき自賠法三条による責任を負うべきである。
また本件事故は運転者である被告小阪拓司の前方不注意等の過失によつて惹起されたものであるから、同被告は本件事故による原告の損害につき民法七〇九条の責任を負うべきである。
4 原告の損害 一四六〇万二〇四七円
(一) 病院等費用 合計三八万九五〇〇円
(1) 入院雑費 一七万六〇〇〇円
(2) 入院付添費 二一万三五〇〇円
(二) 休業損害 一九〇万七八一〇円
原告は昭和二一年七月八日生まれの家庭の主婦であるが、後遺障害確定に至るまでの入、通院治療期間中は、全く主婦としての家事業務を果たすことができず、右金額の損害を蒙つた。
(三) 後遺障害による逸失利益 七九一万二七三七円
原告は、現在も肩関節の運動障害等のため、家事労働に重大な障害を受けている。原告の後遺障害は、後遺障害等級表、第一一級に該当するので、原告はこれによる逸失利益として、右金額の損害を蒙つた。
(四) 慰謝料 合計四三九万二〇〇〇円
(1) 傷害に対する慰謝料 二〇〇万円
原告は本件受傷のため約六ケ月間の入院治療、約五ケ月間の通院治療を余儀なくされた。これに対する慰謝料としては二〇〇万円が相当である。
(2) 後遺障害に対する慰謝料 二三九万二〇〇〇円
原告の後遺障害の等級は、前記のとおり第一一級であるから、これに対する慰謝料としては、二三九万二〇〇〇円が相当である。
(なお右(一)(1)(2)、(二)、(三)の各損害の算定の根拠は別紙記載のとおりである)。
(五) 損害の填補 二九九万円
原告は自賠責保険より二九九万円(後遺障害第一一級の保険金)の損害の填補を受けた。
(六) 弁護士費用 一〇〇万円
以上(一)ないし(五)により、原告は被告に対し一一六一万二〇四七円の損害賠償を請求し得るところ、被告らにおいて右支払に応じなかつたため、原告は本件提訴を余儀なくされた。右弁護士費用としては着手金、報酬金合計一〇〇万円が相当である。
5 よつて原告は被告らに対し、各自、以上合計一二六一万二〇四七円、及び弁護士費用を控除した内金一一六一万二〇四七円に対する本件事故発生日の翌日である昭和五六年六月二九日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因第1項の事実は認める。
2 同第2項の事実は不知。
3 同第3項の事実は認める。
4 同第4項中、(五)の事実は認める。その余は争う。
第三立証〔略〕
理由
一 (本件事故の発生、被告らの責任)
請求原因第1項、第3項の事実は当事者間に争いがなく、右事実からすれば、被告らは原告に対し、原告が本件事故により蒙つた損害を賠償する義務あるものというべきである。
二 (原告の傷害)
成立に争いのない甲第二、三号証、及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故により右鎖骨々折、全身打撲の傷害をうけ、事故当日である昭和五六年六月二八日より同年一二月二〇日までの一七六日間入院、同月二一日より昭和五七年五月二四日までの一五五日間通院(但し実治療日数は四七日間)し、治療をうけ、同日症状固定となつたことが認められる。
三 (原告の損害)
1 入院雑費
原告が、本件事故による傷害のため、一七六日間入院したことは、前記認定のとおりであり、その間入院雑費として、一日当たり一〇〇〇円、合計一七万六〇〇〇円を支出したことは容易に推認されるところである。
2 入院付添費
前記甲第二号証によれば、原告は前記入院期間中、昭和五六年六月二八日より同年七月二七日までの間、及び同年一〇月二八日より同年一一月二七日までの間、計六一日間、付添看護を必要としたことが認められ、その間家族付添費として、一日当り三五〇〇円、合計二一万三五〇〇円を要したことは容易に推認されるところである。
3 休業損害
成立に争いのない甲第四号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和二一年七月八日生まれの主婦であるところ、本件事故による傷害のため、前記入院期間中は家事労働に全く従事することができず、前記通院期間中も簡単な掃除を除いては、家事労働に従事することができなかつたことが認められるところ、これによる原告の休業損害は、原告の年間収入額を二一〇万三七八〇円(賃金センサス昭和五六年第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計三〇~三四歳女子労働者の年間給与額二一六万二六〇〇円中、原告請求の金額)、休業期間を三三一日(入院期間一七六日と通院期間一五五日の合計)として算定すると、一九〇万七八一〇円となる。
4 後遺障害による逸失利益
前記甲第二、三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故により、右鎖骨が右肩鎖関節部で複雑骨折し小破片となつて粉砕し、右肩鎖関節が脱臼状態となつたため、昭和五六年七月八日右鎖骨部分切除術をうけ、機能訓練及び物療によつて右肩関節の機能改善及び疼痛の軽減をはかつたが、運動制限、疼痛が強く、同年一〇月二八日再手術により、更に右鎖骨を部分切除し、その結果可成り症状が改善されたものの、現在なお右上肢に運動制限、機能障害(肩関節の屈曲運動が、自動では左が一六〇度であるのに対し右は一三〇度、他動では左が一八〇度であるのに対し右は一四〇度、伸展運動が自動では左が四五度であるのに対し右は三〇度、他動では左が四八度であるのに対し右は五〇度、外転運動が自動では左が一四五度であるのに対し右は一一〇度、他動では左が一五〇度であるのに対し右は一二〇度)及び疼痛が残つたこと、そのため重いものを持ちにくく、重いものを持ち上げる際には先ず左手で持ち上げ、右手を添える方法で行なつていること、また炊事、裁縫の際には右上腕、右肩関節、右背部に疼痛が生じ、原告としては食事の支度をするのが精一杯で、食後の食器洗い等は原告の夫が原告に代つて行なつていること、また起床時に右肩が重く、右肩から頸部にかけて牽引感が強いこと、右上肢の機能回復の見込みはないが、疼痛については、医師の言によると将来は多少快方に向うこと、が認められ、右事実からすれば、原告の後遺障害の等級は現在のところ、自動車損害賠償保障法施行令、別表第一二級五号「鎖骨………に著しい奇形を残すもの」、及び同級一二号「局部に頑固な神経症状を残すもの」が併号された一一級に該当すると認められるのが相当である。
そこで次に、前記認定の事実を前提に、原告の労働能力喪失率及び労働能力喪失期間につき検討するに、原告の前記症状のうち右上肢の運動制限、機能障害(第一二級五号の後遺障害)については、将来においても機能回復の見込みのないことは前記認定のとおりであるが、疼痛(第一二級一二号の後遺障害)については、それが所謂むち打ち症による神経症状とは異なるものであることを考慮に入れてもそれが生涯継続すると考えるのは相当でなく、これによる労働能力喪失期間は、五年とするのが相当であるから、結局症状固定日より五年間については後遺障害第一一級に該当する労働能力喪失率である二〇%の労働能力喪失、その後の二七年間(原告の症状固定時における満年齢三五歳のものの就労可能年数を三二年として算定)については後遺障害第一二級に該当する労働能力喪失率である一四%の労働能力喪失を認めるのが相当である。
よつてこれにより原告の後遺障害による逸失利益を算定すると、次のとおり六七八万四二六九円となる。
(1) 2,103,780円×20/100×4.364=1,836,179円
(2) 2,103,780円×14/100×16.80=4,948,090円
(3) 1,836,179円+4,948,090円=6,784269円
5 慰謝料
(一) 傷害に対する慰謝料
原告が本件事故による傷害のため、一七六日間の入院治療、実治療日数四七日間の通院治療を余儀なくされたことは前記認定のとおりであるところ、これに対する慰謝料としては、一七〇万円が相当である。
(二) 後遺障害に対する慰謝料
原告には、本件事故のため、前記認定の後遺障害が残つたところ、これに対する慰謝料としては、二二〇万円が相当である。
6 損害の填補
原告が自賠責保険より二九九万円の支払をうけたことは当事者間に争いがない。
7 弁護士費用
原告本人尋問の結果によれば、原告は本件訴訟を本件原告訴訟代理人に委任し、着手金、報酬金を支払う旨約したことが認められるところ、右弁護士費用としては、本件訴訟の経緯、認容額、その他諸般の事情を考慮し、九〇万円が相当である。
四 (結論)
よつて原告の本訴請求は、一〇八九万一五七九円、及び弁護士費用を控除した内金九九九万一五七九円に対する本件事故発生日の翌日である昭和五六年六月二九日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条但書、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 高橋水枝)
別紙
(一)(1) 入院雑費の算定
1,000円(入院1日当りの雑費必要額)×176日(入院日数)=176,000円
(2) 入院付添費の算定
3,500円(1日当りの家族付添費用)×61日間(昭和56年6月28日より同年7月27日までと、同年10月28日より同年11月27日までとの期間)=213,500円
(二) 休業損害の算定
{(131,100円×12)+430,400円}(賃金センサス昭和55年第1巻第1表による産業計・企業規模計・学歴計30~34歳女子労働者の年間給与額)×1.05(昭和56年度における賃金上昇率5%として加算)=2,103,780円(昭和56年度における原告と同年代女子労働者の平均年間給与額)
(2,103,780円÷365日)(1日当りの給与額)×331日間(入院176日間と通院155日間の合計)≒1,907,810円(休業損害)
(三) 後遺障害による逸失利益
2,103,780円×20/100(後遺症障害第11級に該当する労働能力喪失率)×18.806(満年齢35歳の者の就労可能年数32年に対応する新ホフマン係数)≒7,912,737円